正直な気持ち、寂しいですね。ぽっと糸が切れたような...。何にでも終わりがあるんだなと、今思っているところです。この10年間、いつも「ブラックリスト」のことは考え続けてきましたから、それがいよいよ最後ということで自分の人生ということも考えたりしてね。10年って長いですよね。人生の中で10年携われた仕事が終わることで、達成感はありますし、よくやったなという気持ちもあります。でも、これからこんな仕事にはもう巡り合えないだろうなとひしひしと思います。これからまだファイナル・シーズンの収録は残っていますから、それを全力でやって、その後また共演者のみんなで感想を述べあって、寂しい気持ちを労わり合おうかなと思っているところです。
ジェームズ・スペイダーさんというこれだけの演技ができる名優さんの声を当てさせてもらうということで、とにかくやらなきゃいけないんだという身の引き締まる思いがありましたね。まず台本をよく読むこと、彼の表情を一部の隙もなく見逃さないようにしっかり見ることから始めましたね。それから映像を何度も見返して、彼の言っている言葉に対する理解度を深めていくことを考え、彼の一つ一つの言葉には意味があるということを肝に命じました。とにかく緊張を持続できるように、飽きられないように頑張ろうと思ったことは確かです。
映画『セックスと嘘とビデオテープ』('89/スティーヴン・ソダーバーグ監督)で彼を見た時はこんなハンサムな男、見たことないというぐらいかっこいいと思いましたね。しかも、どこか暗い部分や、やんちゃなところも見えて。その後、様々な作品に出演していらっしゃいますが、やっぱりあの時の若くてハンサムな様子が頭に残っていたから、「ブラックリスト」で180度違うキャラクターで登場してきたのには驚きましたね。同時に、このドラマでこれから彼の本当の潜在能力、深い演技力の幅がどこまで見られるんだろうと楽しみになりました。
細かい"間"ですね。それから様々な喋り方の"テンポ"の作り方。そして、一番感銘を受けたのはやっぱり、ご本人としては技術的なつもりでやっていらっしゃるのではなく演技の中で自然に出てきたことだとは思うんですけど、台詞の"音"の使い方です。レッドはお茶目な時、ふざけている時、演説する時など、様々な状況で全く声の使い方が違う。普通のオヤジがコロッと声の使い方だけで極悪人になるというようなね、見事な切り替えなんです。遊んでいる時、酒を飲んでいる時、それぞれのパターンがあって、それがもう千変万化というか。それはね、自分の他の仕事でもいろいろと真似させていただいて、僕の蓄え、財産になりました。レッドは悪役だからといって低い口調で喋るだけじゃなくて、頭の上から高い声を出したりする。そうするとみんながふっと引き込まれるんですよね。そうしてみんなを引きつけておいてまた声を転換したり、押したり引いたり、時には泣いたりもしますしね、何でもやる(笑)。そんな技の豊かさを学べたことは本当に僕の財産になりました。
これほどいろんなどんでん返しで僕らをびっくりさせてきたドラマですから、このままね、普通にね、レッドがチャーミングなウインクをして終わりっていうだけの最後だったら、視聴者はガッカリするでしょうね(笑)。まだ謎だらけだし、いろんな登場人物が関わっているわけだし、ファイナル・シーズンもブラックリスターたちが毎エピソードに出てくるわけでしょ。それがどう今までの謎に関わってストーリーが展開していくのか...。一つ一つの謎解きがされるのか、全ての答えが分かるのか分からないのか、あるいは誰が死んで誰が生き残るのか、全員死んでしまうのかとかね、いろんな可能性が考えられますよね。まあ、フィナーレとしては、レッドに始まりレッドに終わるということになるんじゃないでしょうか。彼は地球でも爆破しかねない男だからね(笑)。最後はレッドが滔々と10ページぐらい喋って(笑)、彼だけ生き残って終わりかなと。そんなふうに僕なりに予想したりして結末を楽しみにしていますね。
長い間、見続けていただいてありがとうございます。おかげさまで10シーズン続けてくることができました。僕たちも頑張ってやってきましたが、ますます深い謎は残されています。ファンのみなさま方もフィナーレはどうなるんだろうと思っていらっしゃるでしょう。きっと何かある、きっと分かることがある(笑)。ぜひ楽しみに、最後までご覧いただきたいなと思います。ありがとうございました。
大塚芳忠(おおつか ほうちゅう)
洋画や海外ドラマの吹替え、アニメの声優、番組ナレーションなど数多く出演。スーパー!ドラマTVで放送した作品では「新スタートレック」「スタートレック:ピカード」のデータ役など。「ブラックリスト」ではシーズン1よりレイモンド・"レッド"・レディントンの日本語吹き替えを務める。