ハリウッドの作品はオーディションが行われることが多いのですが、ちょうど僕がハワイで撮影をしていたときにエージェントから「S.W.A.T.」のゲスト出演の話が来ました。そこでオーディション用の映像を自分で撮影した“セルフテープ”を先方に送ったところ、数週間後に出演決定の返事がもらえました。それがちょうどハワイでの撮影を終えて仕事のためにいったん日本に帰る頃だったのですが、日本に着いた朝に「すぐに来られるか?」と連絡が来て、また急いでLAに飛ぶことになったのです。僕の出演シーンは多かったので、直ちに脚本を送ってもらい、飛行機に乗る前から読み進めて役作りを始め、現地に着いたらすぐに衣装合わせをして、気づけば出演決定から4、5日後にはこのドラマの撮影現場に立っていました。
脚本を読むと、ヨシダは過去にヒックスと一緒に仕事をした経験があって、二人の間には友情があるという設定だったので、それをヒントに役作りをしていきました。そこを起点にして彼のモチベーションやシーン一つ一つのリアクションやアクティングを考えていったわけです。意識したポイントはヨシダという役はこれまで演じてきた日本人キャラクターとは違うということですね。ハリウッド作品で日本人が登場する場合、あくまでサブの弱い立場だったり、メインキャラクターをサポートする役だったりするケースが多いのですが、ヨシダは日本の警部として対等にヒックスと戦いながら、話し合いながら、協力しながら、事件を解決していく人物です。彼は「これが日本のやり方なんだ」と自分を通すところもあれば、“液体らしく”柔軟性をもってアメリカのやり方を理解するところもあります。そんなヨシダを日本人に恥じないキャラクターにすること、オーセンティック(本物らしい)な人物にすることを心がけました。
アメリカのドラマにゲスト出演してきて、これまではメインキャストと共演するといっても2人ぐらいでしたが、今回「S.W.A.T.」はメインキャスト4人と共演することができて特別な経験となりました。年齢が近いシェマーとはすっかり仲良くなりましたね。全然レベルは違うのですが(笑)、僕も俳優のスタートは彼と同じソープオペラ(昼ドラ)だったので、ダウンタイム(撮影の空き時間)ではそんな話で盛り上がったりしました。ジェイは最初のうちは静かだったのですが、「ディーコンはみんなからの相談やグチを聞いてばかりで、彼自身の人生はどうなってるんだ?」って言い始めて、そんな彼のグチを聞く役がいつの間にか僕になっていました(笑)。それから、デヴィッドからは彼の父親に似てると言われましたね。4人の中でも特に親しくなったのは、役の上でもパートナーだったパトリックです。彼とは一緒にいろんな話をしたり、ウエートトレーニングをしたりしました。そんなふうにプライベートでも親しくしてくれたので、役に入ってもすごくやりやすかったです。実際、彼のほうがずっと経験豊富なので、撮影現場でも「いろんなことを試してみなよ」とアドバイスもしてくれましたね。
第13話の脚本家クレイグ・ゴアはオープンに話し合ってくれる方で、日本語のセリフで日本人として不自然に感じる部分について僕が意見を言うと、その場ですぐに変えてくれました。例えば、犯人のキムラが最後に銃を捨てるところの日本語セリフは「降参するよ」となっていたのですが、僕の意見で日本人にとってもっと自然に聞こえる「証言するよ」というセリフになりました。
このドラマはバジェットが大きいからかもしれませんが、今まで僕が出演してきたドラマと比べてもカバレッジ(一つのシーンを様々なアングルから撮影する方法)のテイクが多かったのです。エグゼクティブ・プロデューサーでこのエピソードの監督を務めたビリー・ギアハートは、仕事が速いのですがあらゆるアングルから撮っていくので、どのタイミングで試したい演技やリアクションをやってみせたほうがいいかなど、パトリックがその場で具体的にアドバイスしてくれました。おかげですごく勉強になりました。
ただ、カバレッジのテイクが多いというのは大変な部分もありました。ヨシダという役はストーリーの進行役で日本人とアメリカ人をつなぐブリッジのような存在。S.W.A.T.チームのガイドにもなり通訳にもなるわけです。例えば、小澤征悦さんが登場して野茂選手のバットをめぐるやり取りが行われる居酒屋のシーンでも、ヨシダは日本語と英語の通訳をしながら状況を説明する役回りです。そのシーンの撮影は押していて時間がなかったので時間差のある2つのシーンを同時に撮影することになり、カバレッジがランダムに行われたので、「今度はどちらのシーンの何語のセリフを話すんだっけ」とわからなくなってしまう瞬間がありましたね(笑)。
東京のオープニングシーンのスケールの大きさと、東京都庁が警視庁に変わってしまったことには、僕自身びっくりしました。ヨシダ率いる警視庁のメンバーが歩いてきて、反対側からアメリカから来たS.W.A.T.チームが歩いてきて、対面して合流すると、そこにヘリコプターが来て、ヘリコプターのショットからクレーンのショットに変わる。そこから今度はステディカムのショットになって、そこで日米チームが挨拶をして警視庁に見立てた都庁に向かって歩いていくというシーンです。実際やってみたらそのショットのつなぎのタイミングとセリフが合わないということがわかって。監督のビリーから10秒セリフを増やしてほしいとお願いされました。そこで僕とパトリックで相談してアドリブでセリフを足すことになり、そこに脚本家のクレイグも加わって、最終的に「このセリフで行こう」ということになりました。そんなふうに現場でアドリブのセリフを足すというのはアメリカのテレビドラマでは非常に珍しいことですね。ワンテイクで一連のショットをスムーズにつなげる必要があったので、途中でセリフを少しでもかんだら最初からやり直しというけっこう大変なシーンでもありましたが、撮影は楽しかったです。
今回初めてご挨拶して一緒に共演させていただきましたが、日本ではお二人の方がずっと先輩です。アメリカのドラマではスタッフもキャストも一つのチームとして出来上がっている中に、初対面の自分が一人で飛び込んでいくゲスト出演が一番大変で、ましてやアメリカ人の中に入っていくのはすごく大変だったと思いますが、お二人ともその大変さを乗り越えて素晴らしい演技だったと思います。その他に、このエピソードには僕と同じようにアメリカを拠点にして頑張っている日本人の役者の方々が出演しているので、ぜひ彼らにも注目していただけると嬉しいですね。
ヨシダが小澤さんの演じる情報屋のサトウの態度に業を煮やして「ふざけるな」というシーンで、僕はテーブルをバーンと蹴ったんですね。そうしたら、監督のビリーがやって来て「警察はそんなことしないよ」って言うんです。「そういうことは日本では絶対しない」と言うビリーに僕が「いや、そんなことないですよ」と言っていたのですが、結局、「監督がそう言うのなら」ってこちらが折れました(笑)。その他にも、ヨシダとタンの関係などはアメリカ人の感覚で書いていて、日本人の脚本家は書かないようなストーリーだなとは思いました。現場の様子について言えば、アメリカの俳優やスタッフは優遇されているんだということを実感しましたね。アメリカの場合はユニオンがあって俳優やスタッフを守るために撮影時間やその間の食事についてもルールが細かく決められています。でも、日本にはそういうものがないんですね。日本人のヘアメイクの方が深夜3時まで仕事してまた朝5時に現場に出てきたなんて話をするのを聞いて、「そんなハードなんだ、アメリカではありえないことだな」とびっくりしました。
小学生から高校生まで舞台をやったり、若い頃はバンドやモデルをやったりもしていたのですが、その時は役者を目指す勇気がありませんでした。でも、大学を卒業してから金融業界に入って30歳を過ぎた頃、自分の人生は一度きり、自分のやりたいことをやってみたいと思うようになりました。そこで、また役者の学校に戻って、メソッドを学びトレーニングをすることからスタートしたのです。現在、 “スターヴィング・アクター(貧乏役者)”では食べていけないので(笑)、他の仕事とも両立しながらやっているわけです。ただ、「一つのことだけにこだわる必要はない、それをやりながら他のこともやっていいんだ」とは考えています。ゴルフがやりたいと思ったときに、「私はゴルフしかやらない」というのではなくて、テニスも野球もやっていいわけじゃないですか。僕自身、音楽で言えばギターもピアノもドラムもやりますし。好きなことはいくつでもやっていきたいと思っていますね。
僕が日本人学校に通っていたのは香港にいた小学2年生から6年生まで。その後はずっとアメリカの学校に通っていました。でも、アメリカで金融業界に入ったバブルの後半期は一番のお客さんが日本人だったので、そこでまた日本人と会話するうちに日本語を勉強し直したと言えますね。ただ、今でも日本人にしてはしゃべっていることがオープンで率直すぎると言われることはありますよ(笑)。
これまでにない見どころは、1つめは都庁が警視庁になってしまったスケールの大きなオープニングシーン、2つめは女子プロレスラーが登場するロボットレストランのシーン、3つめは日本人がS.W.A.T.チームと対等に協力して事件を解決するストーリー。さらに、日本人の役をちゃんと日本人俳優たちが演じているところだと思います。また、個人的には、この役をやる前に立て続けに悪役のボスを演じていたので、悪役のボスと警察のボスとの違いをどうやって出すかを考えながら演じることにやりがいを感じていました。ですから、ヨシダがタンを差別したことをヒックスに非難されて「君とは友人だが一線を踏み越えるな」と反発するくだりにもぜひ注目していただきたいですね。そこは初めて2人が衝突するシーンで、どの程度までやり合うのかというのを監督のビリーともよく話し合ったところです。