ドリーグリップはグリップ(特機部:撮影用の特殊機械を操作する)の部署に所属していて、撮影班と密接に連携しています。ヨーロッパ諸国などではグリップは撮影部の一部であることが多いですが、アメリカでは照明部の一部とみなされています。しかし私たちは照明班といる時もありますが、大体は撮影班と共に行動します。それぞれに担当するカメラ・オペレーターがいて、そのオペレーターがシーンを撮影するのに必要なことをサポートするのが私たちの仕事です。
グリップの部署には現場を統括する特機部チーフ(キー・グリップ)がいて、また第一助手(ベストボーイ・グリップ)はスタッフの配置や制作会議などサポート業務を担当します。彼らは現場が撮影を行なっている間に次の数話分の撮影の準備もします。「S.W.A.T.」は規模の大きい番組なので、現場準備の先発隊がいて、私たちが到着してすぐに撮影が始められるようにセットの準備をしておいてくれています。「S.W.A.T.」はA、B、Cの3台のカメラで撮影をするので、3人のドリーグリップがいて、私はBカメ担当のBドリーグリップです。そして撮影中は私たちを含めて10人ぐらいのグリップが現場にいます。
仕事としては最初にニューヨークのホテルでケータリングのスタッフとして働いていました。また料理長の見習いを3年間務めました。そんな中、映画業界で働くチャンスが訪れて、楽しいし稼げるし、すっかりそちらにのめり込んでしまいました。
映画の仕事は最初にカメラアシスタントを経験しました。ニューヨーク大学に友人が大勢いて、彼らのプロジェクトを手伝っているうちに、低予算映画のカメラアシスタントをすることになって。撮影現場で初めて働きましたが、それは特別な体験でしたね。当時20歳だった私にとって、みんなで一緒に忙しく動き回る現場の仕事はすごく楽しかったです。それからしばらくカメラアシスタントを続けた後にポートランドに引っ越しました。そしてそこにいる時に、今度はロサンゼルスに行ってグリップの仕事をしようと考えました。グリップの仕事は多岐にわたっていて撮影に深く関わるので可能性が広がることに気がついたからです。その後グリップの仕事を続けていますが、とても素晴らしい体験で後悔したことは一度もありません。仕事の内容は毎回が違う経験になるし、大勢の素敵な人たちとも出会うことができて毎日がとても充実しています。
生まれは日本ですが、私が生後6ヶ月の時に父がNASAで仕事をすることになりました。そして当時6歳と7歳だった姉たちも一緒に家族でアラバマ州に引っ越したのです。祖父母やいとこは日本に住んでいますが、私はずっとアメリカで育ちました。機会があるごとに日本に行くようにはしていますが、最後に行ったのは5年前になりますね。
まず1話を撮影するのに、平均9〜10日かかります。準備期間はその時の状況によって違いますが、クレーンの複雑な設定に2時間しかもらえない時もあります。本当にすべてが早いペースで進行しています。設置した後に俳優のリハーサルなども入るし、忙しいタイムスケジュールです。
例えば午前中に大掛かりではない普通のシーンの撮影をする日があるとします。その場合俳優がまずリハーサルを行って、その後にカメラ・オペレーターがどの場所でどのように撮影したいかを決めます。ここまで40〜60分かかります。本番の長さはシーンによっても違いますが、だいたい1〜2時間程度。その後昼食を挟んで、午後は特殊効果も入れるような大掛かりなスタントのシーンを撮ります。車が爆発するシーンは、それを捉えるためにカメラの位置を指定されます。そして特殊効果チームも現場に入って、彼らが必要な準備をする。それと同時にスタントのチームは俳優たちと打ち合わせをして、リハーサルを行う。ここまでの準備時間は1時間ほど。爆発シーンを撮るので、安全に撮影できてかつ必要なショットがとれるカメラポジションを決めるのには時間がかかりますね。大掛かりなシーンだと6時間ぐらいをずっとひとつのシーンやひとつの特殊効果に費やすこともあります。安全に配慮しながら必要なカットを撮るために入念に準備をしなくてはならない。爆発シーンなどは1度しか撮影チャンスがないこともあるので。通常の日は準備も含めて撮影に大体10〜12時間かかります。
「S.W.A.T.」では2台のステディカムを使用していて、そのことによって大胆なアクションを捉えることができるのですが、他のテレビドラマでは滅多にないことです。そして特殊効果を加えるような、早いペースのアクションシーンは手持ちカメラで撮影をします。3人のカメラ・オペレーターがいて、そのうちの2人はとても若く激しく動き回るので、私と同僚はいつもランニングシューズを履いて、彼らを追いかけて壁に当たったりして怪我をしないように気を配るのが大変です(笑)。カメラマンを誘導しながら後ろ向きに走ったりして、とにかく駆け回っていることが多いですね。私たちの仕事はカメラマンのサポートをして、彼らが安全に必要なカットを撮影できるようにすることなので。
話数ごとに担当が決まるわけではなく「S.W.A.T.」の番組と契約しています。そしてカメラ・オペレーターごとに担当が決まります。シーズン1の第1話から関わっていて、それ以来ずっと撮影がある日は現場にいます。スタッフの8割ぐらいはスタート時からずっと一緒なので、今や家族のようです。その間結婚する人がいたり、子供が産まれたり、そんな喜びも一緒に分かち合ってきました。
キャストはみんなフレンドリーで気さくなので話しやすいです。私たちスタッフにもとても気を使ってくれるし、キャスト同士もとても仲が良いですね。我々のチームは現場にいる時間が長いので、各メンバーがそれぞれのキャストと良い関係を築いていると思います。みんなオープンで現場ではスタッフとキャスト一緒におしゃべりして、冗談を言いあって楽しくやっています。
シェマーはロサンゼルスの街中でアクションシーンの撮影をしていても、ファンがやってきて写真を撮りたいと言ったら、途中でも対応してあげる。本当にファン思いの素晴らしい人で、だからこそ今の彼があるのだと思います。
アクション撮影のスタッフの一員でいられるのがとても楽しいです。常にセットにいて、すべてのカットの撮影に関わっていられるので全体の流れも把握できて、番組の制作に深く関与できているところも好きです。「S.W.A.T.」は特殊効果や、スタントが多いのでやりがいもある。9日ごとに小規模な映画を撮影しているような気になります。他の小規模な撮影現場では数週間から時には数ヶ月かかる大規模なアクションシーンを、私たちは1日で撮り終える。信じられないほど早いペースで仕事をこなさなくてはならないので、すべての部署のスタッフはとても優秀でプロフェッショナル。毎日自分たちがやり遂げた仕事の量に驚いています。世界中に大勢のファンがいる素晴らしい作品の仕事をしているなんて。今までに4シーズン関わってきましたが、未だに自分たちが撮影したとんでもなく規格外のアクションシーンの数々にビックリしています。
ハリウッドで働くことを目指している方々にお伝えしたいのは、それがプロデューサー、俳優、技術関係等の裏方などどのような職種でも、とにかく「あきらめないこと」です。希望者がとてつもなく多い業界だけれど、苦労を乗り越えればそのぶんだけ成果がでるし、目標を常に心に留めて努力し続ければきっと成功できると思います。
私が所属している組合や部署では女性の数はまだ少ないです。ドリーグリップの仕事を始めたばかりの頃、私が女性で身長が160cmほどで低いので、そのことを理由に「この仕事をこなせない」と言われることもありましたね。でも私はそんなことはないし、他の人よりもっと上手にこなしてみせると言い返しました。そして現場に行く前には常に色々な状況で起こりうる問題を把握し、事前に計画して、他の人より効率的に仕事を進められるようにしました。今では私の仕事のやり方を評価してくれる人が大勢いて、人脈も広がりました。だからみなさんも「決してあきらめないで!」。
Yu Karitani(苅谷 木綿)
「S.W.A.T.」撮影スタッフ。撮影用の機械を操作する“ドリーグリップ”としてシーズン1から作品に関わる。 2000年から映画・テレビ業界で活躍。ニューヨークで2年間アシスタント・カメラローダーとして働いた後、“グリップ”として知られる照明部門に入る為ロサンゼルスへ。2016年「Angel from Hell」という番組でカメラのドリーを押すポジションを任されて以来、様々なテレビ番組で“ドリーグリップ”として参加している。